--/--/--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2010/01/13

俺と本屋とアマゾンレビュー。

 次の電車までの時間つぶしなのか、仕事や学校からまっすぐ家に帰るほど悲しいものはないと知っているからなのか、この駅前の本屋にはあらゆる客層の数人が入れ替わりながら買う気のない本を立ち読みしたり、買いたい本を探しているフリをしている。

 ビジネス書のコーナーには赤いネクタイをしたマジメそうに眉間に皺を寄せているスーツの男性、女性向けマンガのコーナーには物静かそうだけれど趣味の合う友人とは何時間でも話していそうな制服のスカート丈が長めな女の子、男性ファッション誌のコーナーには髪の毛に無造作な流れを作ったコートを着た青年、カートを引きずりながら野外の寒さから身を守る衣服がボロボロの老人などがあちらこちらに見える。

 目玉焼きを食べる時にはいつも迷う。しょう油をかけるべきか、それともソースか。いや、ウソだ。俺は迷わない。俺はいつだって塩だ。目玉焼きには塩と決めている。物事の答えは最もシンプルな形になった時だけに現れる。これ以上は何も引くことが出来ない状態にこそ「答え」が浮かび上がってくる。俺はもう目玉焼きの答えを知っている。目玉焼きに何をかけて食べるのかで迷うことはもうやめたのだ。

 俺は今、とても迷っている。それは、この本を買うべきかどうかに。その本は「今話題の本!」と手書き風の文字が印刷されたポップがおどっている本たちの脇にある。その本は派手に平積みされている台の隅で静かにしている。本はひとりでにしゃべったりしない。本は開くまで本は一言もしゃべらない。ページを開いて文字を目で追い始めてから、やっとしゃべり始めるのだ。しかし俺は彼と目が合ってしまった。彼をパラパラと開きながら軽い挨拶、軽い会話を始めた。

 最近はめっきり寒くなってきたね。お昼は何を食べた?俺は天ぷらうどんを食べたよ。スポーツとかやってたの?いやあ、ガタイがいいから聞いてみたんだけど。俺は運動オンチだからね、球技とかやらせたらひどいもんだよ。そういえば最近あそこにゴールドジムが出来たの知ってる?え?通ってるの?じゃあプロテインに継ぐプロテインでマッスルマッスルなんだ、すごいなぁ。うん、じゃあまたね。

 携帯を開き、ブックマークしてあるアマゾンのモバイルサイトに接続する。タイトルで検索し、その評判を見る。もうどんな本も、どんな家電も、どんな音楽も、画面の中で性行為をしている女性のことでさえも誰かの評判を聞いてからでなければ買うことはない。それは少しでも損をした気分にならないために必要な儀式だ。

 携帯の画面には「星2つ。話題になっているということで購入しましたが、終始思わせぶりなわりにオチがまったく面白くありません。まるで脳みそまで筋肉のようです。軽い気持ちで読むにはいいのかもしれませんが、何かを期待して読むとガッカリします」という文章が表示されている。そしてカスタマーレビューをつけているのはこのひとりだけ。人は行動を起こす時、必ず決断を迫られる。今日、俺はこの本を買うのかどうか、この彼と友人関係を結ぶのかどうかという決断をしなければならない。

 俺はこの本は買わない、そう決めた。何年か前から、何かを買うときに携帯でアマゾンの評判を見て評判が良ければ買う、でなければ買わないようになってきた。大規模な通販サイトは俺にとって大規模なレビューサイトになっている。俺は彼と友人になれたかもしれないけれど、彼の評判を聞いてしまったからにはもう二度と彼と会うことはないのだろうと悟った。彼の筋肉はすごかった、それだけだ。俺は何か大事なものを無くしてしまった気はする。今はただ、それは気のせいだったということにしたい。

コメント

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。