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2008/07/02

I forgot

 私から見て左には大きな本屋がある。その本屋の脇には自動販売機が何台も置かれた休憩所のような場所があり、ビーチパラソルのような屋根の下にはイスが何脚か置いてある。私たち3人はその場所で缶コーヒーやジュース、スナック菓子などを買って座りながら話をしていた。細かく言えば3人は本当に話をしていたのかどうかは怪しい。

「それマジでウケる、スゲーね」

 私のやや右側、ほぼ正面に座っている彼女はそう言って笑いながら体をのけぞらした。私は彼女に何を話したのかは忘れてしまった。彼女はTシャツの袖をめくりノースリーブのようにしている。キャプテン翼の日向みたいだ、そう彼女に伝えようか迷ったが彼女がキャプテン翼のことを知らない場合に話がこじれると面倒なので言うのをやめた。

 彼女は手首に安っぽいアクセサリーを何重もつけて、ジーンズ素材のショートパンツにスポーツブランドのサンダルを履いている。行儀の悪い座り方から彼女は荒っぽく堂々とした性格をしているのだろうと感じた。右足首を左足の膝に乗せる足の組み方。それはまるで大柄な中年男性がするような組み方で、特に女性がすると品のない印象を与えるからやめた方がいいと伝えようと思ったが、やはり話がこじれることを恐れて何も言わなかった。

 彼女の何度も脱色している髪は遠くから見てもわかるほどバサバサで化粧も大雑把だったけれどキレイに日焼けした肌はツルンとしていて太陽の光をすべて弾いているようだった。

「こないだマジで驚いたんだけど・・・」

 彼女は右手でスナック菓子をつまみながら自分の体験談を話し始めた。彼女は自分の話に時々自分で笑っていた。彼女の家族、友達などの話だった気がするが特に内容は覚えていない。彼女の話に私がまったく興味がなかった事も関係しているかもしれない。どうでもいい内容だったことはたしかだと思う。彼女はこちらに対して好意的な笑顔を見せてくれていたので悪い気はしなかった。

「あの方は本当に素晴らしい人物なんです。ボクを不幸から救ってくれたし、沢山の人を幸せにしている」

 彼は私からみて左側の少し奥に座っている。うつむいているので最初はよくわからなかったが、顔をよく見れば誰もが知っているアイドルグループに所属している人物だった。ここで彼は何をしているのだろうと私は不思議に思ったが、彼の鬼気迫る形相で何もない地面を凝視しながらひとり言のようにブツブツ喋っている姿を見てあまり関わらない方がいいかもしれないと思い目をそらした。

 テレビの中で見る彼はいつも歌ったり踊ったりしているし、バラエティ番組ではさわやかな笑顔を見せているその姿と今のその姿のギャップに少し残念さを感じながら、心のどこかでは自分とは関係のないことだと割り切ろうとしていた。

「あの方こそが永遠だし、あの方だけが絶対なんです。ボクはあの方のためなら死んだとしてもいい。お金なんて関係ないんだよ、あの方が正しい使い方をしてくれているのだから惜しいだなんてまったく思わない。それに・・・」

 彼はキレイに整えられた髪型で、カジュアルなジャケットの下に素材感のあるシャツ、細身のジーンズにブーツを合わせている。彼が身に着けている服はすべてが卸したての新品に見えた。椅子に座っている姿勢も背筋がピンと伸びていて彼の独り言さえ聞こえなければ誰が見ても好青年に映るだろう。しかし私のいるこの位置からは彼の言葉がイヤでも聞こえてくる。それだけで彼が人気アイドルということを忘れてしまうほど気味の悪い印象を与えていた。

 彼は誰に話しているのだろう、もしかして私に話しかけているのだろうか。だとしたら彼はどうしてこちらを見ないのだろう。私は彼の方をチラチラと見て様子をうかがっていた。彼女は彼のことを気にする様子はまったくなかった。もちろん彼の方も地面を見たまま彼女のことを見ない。お互いがまるで存在していないような素振りでもあった。本当に存在していないのかもしれない。私はなぜかそう感じた。彼はさっきから同じ姿勢で下を向いたままブツブツブツブツと呟いている。彼女は「今日マジ天気いいよね。あちー」と言った。

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