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2007/11/30

ダンサー

「ああ、そうだ、あの日だよ。完全に忘れてた」
「うん。あの日の6時くらい」

「うん、そのくらい。よく思い出せたね。あれでしょ、記憶力いいでしょ?」
「記憶力はどうだろう?でも、あれはさすがに覚えてる」

「女の人ってさ、ホントに昔のこと覚えてるよね」
「それとこれとはあんまり関係ないと思うけどね」

「でも俺は忘れてた」
「それ、私ひどいと思う」

「あれだから、忘れっぽいから」
「いつもぼーっとしてるからじゃないの?」

「別にぼーっとしてないよ」
「してるよ。そう見える」

「あれだよ、考え事。でも、忘れっぽいからすぐ忘れるけど」
「それさー、すっごい意味がないと思う」

「あれみたいに、あのー、ところてんみたいに。こう、みょーんって」
「あー。あれでしょ、あのー、ABCを覚えて、Dを覚えようとするとA忘れちゃうやつ?」

「そう、それそれ。でもBCDは覚えてるよ」
「それAが一番大事なんじゃないの?アルファベットでいったら」

「あー。まあ、いいじゃん。それはそれだよ」
「いいんだ」

「いいよ」
「ふーん。でもそういう人うらやましいよね。嫌な事はすぐに忘れるんでしょ?」

「どうだろ、事によるけど」
「じゃあ覚えてなさいよ、人殺してるんだからさー」

「えー、だってさすがにもう何年も経ってるじゃんか?忘れるよ」
「忘れるんだ、ちょっと笑える。忘れられるってのが」

「逆に、怪しまれないで暮らすには忘れてるくらいでいいんだって」
「ふーん。まあ、あれだもんね、本当にそうなったもんね」

「でしょ?時効成立だもん。やったねー」
「わーい。ばんざーい、って感じ?」

「ばんざーい」
「すごーい、おめでとうー。でも私そういう気分になれないんですけど」

「いいよ、だってお前も時効成立でしょ?同じなんだから」
「そうだよ」

「じゃあ、いいじゃん。あれでしょ?今日はお祝いで来たんでしょ?」
「あー、逮捕されなくて良かったねって?」

「それで来たんじゃないの?それ持って」
「ああ、これ?ビール?」

「うん。グラス持ってこようか?」
「・・・うん、じゃあ、持ってきて」

「はーい。ちょっと待ってて」
「・・・。」

 ゴンッ

「なんだよっ?何っ?」
「・・・・・・。」

「やめろっ、お前っ・・・!」
「・・・・・・。」

 ゴンッ ゴンッ ゴンッ ゴンッ・・・・・・・・・

「」
「はぁ、はぁ、はぁ」

「」
「私の気も知らないで、自分だけ全部忘れて暮らすなんて・・・」

「」
「あの日から何年間、私が苦しんだと思ってるんだ・・・」

「」
「ああ、少しは気が晴れた」

「」
「よし、ちょっと、踊ろう。ミュージック!スタート!」

彼女は長年の間、誰にも言えずひとりで抱え込んだままになってた複雑な思いを軽快なラテンのリズムに合わせすべてを吐き出すように踊った。腰を振った、腕を回した、足を踏み鳴らした。身体全体が強く躍動し、誰よりも自由奔放に、彼の住んでいたアパート全体を揺らすような激しい創作ダンスだった。
「踊っている彼女は本場のダンサーよりも情熱的でした」
下の階の住民から「上の人がうるさい」と苦情を受け様子を見に行った第一発見者の大家さん(越野 守さん 62歳)は彼女についてそう証言してくれた。
「一目見て分かったんです、感じたんです、彼女の踊っているダンスは ”生きることの苦悩” を表現しているんだって。私はこれでも昔ね、そういうダンサーの道を志していた時期があったんですけれど、ああ、これが本物だって、本物には適わないって、そう直感しました。とにかくあんな踊りはいままで見たことなかった。世界中さがしてもあれは彼女にしか踊れないでしょう。そういうね、オリジナリティ溢れる表現力をビンビンに感じました。私ね、あの踊りを見た瞬間ね、お恥ずかしい話で申し訳ないですけど、もう、何年かぶりに勃起してしまったんですよね。そういうエモーションですか?バイブスっていうんですか?本当に凄かった」

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